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2022-06-29

「洋」を受け入れ、日本古来の美しさを守る

デザイナーの遠藤です。

ディクラッセの照明デザインは、欧米の文化、ライフスタイルをよりどころとするものが中心となっています。

とりわけ、あたたかいオレンジ色の控えめな灯り、それがわたしたちに与える癒しの効果。私自身が、イタリア、ニューヨーク、そして北欧の国々を旅する中で、身に染みて感じてきました。これはディクラッセの照明づくりの軸となっています。

オレンジ色の控えめな灯りには、副交感神経を優位にし、人の心身をリラックスさせてくれる効果が、脳科学の見地からも、認められています。

この欧米の「癒しの灯り」に魅せられ、ディクラッセではオレンジ色で優しい明るさの照明を作るようになりました。

こうした欧米の文化、ライフスタイルにインスピレーションを受けた照明がある中、今年、わたしたちは、「日本の文化」「和」に向き合った照明を発売しました。

オーエイチ テーブルランプ(OH table lamp)です。

なぜ、いま「和」テイストの照明をデザインしたのか、この記事では、その理由やコンセプト、特徴など、OH テーブルランプにまつわるお話をご紹介したいと思います。(以下、「OH」と表記します)

繭の神秘・日本の美を映した、OH テーブルランプ

「OH」は、繭玉の美しさと神秘性に感銘を受け、「繭」と日本古来の「美」を表現したランプです。

楕円型のシェードは、”繭のように繊細でやさしい灯り” と、”流線形の美しい形状” に着目しました。繭という、人間の手を加えずに自然形成された、流線型の美しい形状を再現しました。

シェードの素材には、1500年の歴史を誇る越前和紙を用いました。色々な種類の和紙を用いて灯りの理想形を追究した中で、生成色であたたかみのあるテクスチャーを持ち、繭の繊細な美しさ、繭玉の質感を再現できることが、越前和紙を使う決め手になりました。

越前和紙を透した、繊細で落ち着きのあるオレンジ色の光は、陰影のコントラストを生み、気持ちが穏やかになるような演出をしてくれます。

シェードを支えるスタンドは、「和」の雰囲気を引き立てるために、できるだけシンプルなものに仕立てました。
この楕円型のシェードとシンプルなスタンドの形が、「OH」 の由来です。

H型のスタンドに納まるO型の灯りは、まるで繭の中で飛び立つ準備をしている蚕のように、静かに落ち着いた雰囲気で辺りを照らします。

「OH」は、養蚕業や和紙作りという、日本の伝統的なものづくりにインスピレーションを得た照明です。今回は、伝統的な日本のものづくりに敬意を示すとともに、「日本のものづくりの継承」というSDGs の考え方もふまえ、Made in Japanにもこだわりました。

コンセプトは、はかなく健気な「繭」、その「日本らしさ」

「OH」のコンセプトは、「繭」と「日本らしさ」。

幼い頃、養蚕(ようさん)の現場を見て、不思議な生物が糸になってゆく過程に、はかなさと健気さを感じました。蚕が一生をかけて1000メートルもの糸を生み出す、そのはかなく健気な姿に、日本人のDNAに刻み込まれた真面目な暮らしを重ね合わせました。

出来上がったデザインコンセプトは、「繭の日本人への擬人化」というものでした。「OH」は、このコンセプトのもと、試行錯誤の末に誕生したのです。

古来からMade in Japanの礎を築いてきた繭と、真面目な日本人。
主張しすぎず、静かに優しく辺りを照らす「OH」からは、はかなさと健気さが感じられます。

H型のフレームスタンドに納まるO型の明かりは、その癒しを世界に向けて伝播させるために、自ら飛び立とうと準備をしているさまのようにも見えます。

日本古来の光の使い方に魅せられて

冒頭に述べたように、照明デザインの軸は、欧米の文化を拠り所とすることが多かったので、今回、ディクラッセが「和」に向き合った照明を発表したことに、驚かれた方もいるかもしれません。

私は、青白い蛍光灯が溢れる、近年の日本の照明事情には、疑問を感じています。なんか疲れませんか?

ひと昔前までは、日本家屋では魅力的な光の使い方がなされていました。

「部屋の中に入った庭の光が奥の屏風で逆反射し、控えめな光に変えて部屋の中を照らす」
「外の強い光を障子で和らげる」
「暗い夜を蝋燭の光と影の中で過ごす」

電灯がなかった時代の日本、当時の美意識を唱えた、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」の世界です。日本では、懐古主義的な評価をされがちなエッセイですが、海外、とりわけ北欧では絶大な人気を得ています。

心を穏やかにする灯りと暮らす生活。生活様式が変わったから、という言葉で、これを過去の文化としてしまうのは、もったいないことです。

自然と、身近にある物を上手に取り入れた日本古来の光の使い方には、欧米の照明文化と異なる美しさがあります。デザイナーとして、この美しさに惹かれ、プロダクトに反映したいと考えるのは、自然な流れでした。

「洋」を受け入れ、日本古来の美しさを守る

「OH」は、デザインを「和」に傾きすぎない「和モダン」に仕上げています。和洋どちらの空間でも、和紙を通した、温かく控えめな日本らしい光を楽しんでいただけます。

このデザインは、日本と北欧の要素をミックスした「ジャパンディ(japandi)」にも通ずるところがあるのではないでしょうか。

わたしたちディクラッセは、これからも海外の照明文化だけでなく、日本のあかりの文化や伝統産業、日本人の暮らしを大切にしていきたいと考えています。

「OH」が、日本古来の美しさの再発見に繋がれば幸いです。

デザイナー 遠藤 道明

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