サー・テレンス・コンランを偲んで
2020年9月12日。ちょうど一年前の今日、サー・テレンス・コンラン(Sir Terence Orby Conran) が、この世を後にしました。
サーと出会ったのは、今から27年前。以前私が働いていた、インデックスコレクション(現デザインインデックス)の後藤陽次郎さんから声を掛けていただき。開店を控えたザ・コンランショップ新宿に、照明導入の準備をしていた時のことでした。
当時を偲んで、日本における「ショップ」のあり方について書いておきたいと思います。
ザ・コンランショップ(THE CONRAN SHOP)。サー・テレンス・コンランが、ロンドン・チェルシーに1964年に創業したインテリアショップ、ハビタ(HABITAT)。そこからライフスタイルの提案という面にフォーカスしたショップ、ザ・コンランショップがスタートし、やがて日本にやってきます。
1994年、日本はバブルが崩壊し、いわゆる「失われた20年」のトンネルの中をゆっくりと進み始めた頃のことです。西新宿のアイコンだったガスタンクがなくなり、その跡地に、直立する水晶のような高層ビル、新宿パークタワーがそびえ立ちました。
日本の一号店は、その中にオープンしました。
サー・テレンス・コンランの思想
コンランショップは、実にユニークな発想をもったお店でした。
インテリアショップという表現が主流だった当時、コンランショップは、家具やデザイン照明を扱いながらも「生活を向上するための、ライフスタイルショップ」というスタンスでした。今では、どこのインテリアショップも使っている表現ですが、その源流はコンランショップにあります。
従来のインテリアショップと一線を画するところは、「自分の家に招いて、テーブルやお皿や、椅子などをセットにして選んでいただくこと」が目的とされていて、サーのコンセプトは、「このコーディネートを丸ごと買ってほしい」というものでした。当時は、テーブルと椅子を売るショップはあったものの、テーブルコーディネートされた食器までも販売するインテリアショップはありませんでした。
コンランショップが日本に来るまでには、大手のインテリアショップさんは、12月のクリスマスの飾り付けの時期になると、ロンドンのコンランショップへ行き、写真を撮り、そっくりそのまま、見よう見まねでディスプレイしていました。それは、その時のトレンドを把握するには、まずコンランショップを見て、そのとおりにすることが正解だったからです。
コンランショップは、接客でも印象的でした。「お客さまを気軽に家に招く」スタンスだったので、「いらっしゃいませ」が当たり前の時代に、あえて「こんにちは」から始まる接客をしていたのです。
社会生活の向上、人々の心を癒す
ディクラッセには、
「デザインの力で心を癒やし、豊かなライフスタイルを提案する」という企業理念があります。
照明を企画する、デザインする、設計する、製造する、売る。メーカーとして当たり前のことですが、これはいずれも、私たちが掲げる「豊かなライフスタイルの提案」があり、その先につながる行動です。「私たちが提案する豊かなライフスタイル」という定義は、不変的なものではありません。確固たる軸を守りつつ、世の中の動きを分析し、取り入れていく必要があります。
人々の生活を豊かにする、というディクラッセの使命、サー・テレンス・コンランが抱いていたものづくりの信念に通ずるものがあります。
イギリスとフランスのコンランショップで、ディクラッセの定番商品 アルル(Arles)デスクランプを扱ってくださっているのも、こうした共通の信念の帰結なのかもしれません。
デザイナー 遠藤道明