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2022-03-01

自然との対話、理性で感じる照明づくり。

デザイナーの遠藤です。

照明デザイナー、という肩書きで呼ばれることが多いのですが、私自身は「照明器具」つまり、かたちあるものをデザインしているのではなく、「光と影の創造」に携わる人だと思っています。

照明は、単に空間を明るくするだけのものではない、というのがわたしたちの考えです。ディクラッセの照明哲学は、照明器具そのものに焦点を当てるのではなく、そこから産みだされる光と影、これをデザインすることにあります。

今回は、そのデザインの根幹となる部分をすこし紐解いていきたいと思います。

「照明器具」と一線を画すもの。

光と影をデザインする、どんなデザインなのですか?と、ご質問を受けることもあります。
それは、セラピー的な癒しを感じさせる照明をうみだすことです。ディクラッセのコレクションを、単に「照明器具」と位置付けるのは、私たちの思想とすこしずれてしまいます。

世のなかには、実用的な照明、とりわけ、移りゆくトレンドを敏感にキャッチした照明器具はたくさんあります。ディクラッセでひとつひとつデザインされた照明は、実用性を追求した「器具」「装置」ではなく、わたしたち独自のデザインインスピレーションを凝縮させた「光と影をつくるアート作品」と表現した方がしっくりくるかもしれません。

葉の影、木漏れ日。

デザイン会社「ディクラッセ」。最初に取り組んだモチーフは「葉」でした。このモチーフは、現在のイメージに落ち着くまで、1年近くの月日を要しました。

美しい色の羽をもつ鳥が、ひとりゆっくりと身体を休める、鮮やかな緑の葉を持つランプシェードのフレーム、この姿は、癒しをもたらしてくれます。
スイッチを入れると、木漏れ日のように白い壁に映る葉っぱの影、オレンジ色の柔らかな光が、自分が、まるで森の中にいるような錯覚に陥ります。これに、森の音や匂いが加わると、東京という巨大都市にいるという現実を完全に忘れてしまいます。

自然素材をつかうことがすべてではない。 

パリで開催されている、世界最大のインテリアデザイン見本市「メゾン・エ・オブジェ」。以前、この展示会に、葉っぱをテーマにした作品を出展した際に、現地のひとから、このような質問を受けたことがあります。

「なぜ本物の葉っぱではなく、イミテーションの葉っぱを使うのですか?」

自然をテーマにするならば、素材遣いもかくあるべき、いかにもフランス的な発想でした。「照明器具・シェードの素材・デザインではなく、影を見てほしい。」このように答え、照明が生み出す美しい影と、それを支えるコンセプトを伝えたところ、その方はしっかりと理解し、評価してくださいました。

その後、ディクラッセのデザインテーマは、葉から木、そして枝の流れ、雲、夜空に突如現れるオーロラへと徐々に移行し、自然現象全般を表現し続けています。
自然との対話は、今後も無限に続きます。それゆえに、ディクラッセの照明の物語性も、ひとつひとつのあかりにしっかりと注ぎ込まれ続けています。

現代に生きる日本人のライフスタイルは、デジタル化、未来志向の考え方によって、その影響を色濃く反映するようになってきました。
モノだけに焦点をあてたインテリアデザインや、利便性を重視した現代の住まいは、とかく無機質なものになりがちです。

やさしい光や影が映り込んだ壁やテーブルに実際に触れ、親しい人たちとその時間を共有したくなる。時間は悠然と流れ、暮らしの中で生まれる、ひとびとの笑顔の対話は、わたしたち人間の精神と記憶に優しく刻まれていきます。

何気ない一日が、特別な一日に変わる瞬間を、温かい光が映し出します。きっと誰にでも、この体験を共有したいと思う大切な人がいるはずです。


オーロラをモチーフにした、アウロ M ペンダントランプ(Auro M pendant lamp white)

17〜18世紀にイギリスやフランスで活発になった、「啓蒙思想」という考え方があります。

「あらゆる人間が普遍的な理性をもち、それには何らかの根本法則があり、それは理性によって認識できる」

「啓蒙」、日本では、人々に正しい知識を与え、合理的な考え方をするように教え導くこと。という意味合いで使われることが多いこの言葉。

言葉の源泉を紐解いていくと、フランス語では、”lumières”、ラテン語では、”lumen naturale”、つまり、「光・自然の光に照らされること」、という言葉で表現されています。つまり、追及すると

「自然の光は、本来の人間の理性に向き合うために、欠かせない絶対的なもの」

このように言い換えるができると思います。

日常生活の中で、徐々に失われつつある、日本人が持ち続けてきた自然とのふれあいの場。自然をテーマに、光と影を、自然そのものの美しさを、ディクラッセの照明が生み出す光と影を通じて、理性に訴えかけていくことが、わたしたちの使命と感じています。

 

わたしたちディクラッセは、人間本来の理性が欲する「あかり」を啓蒙し続けたいと思っています。

デザイナー 遠藤 道明

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