間伐材の輪切りに想いを込める
ショールームの中に、同じ製品が10台以上サンプルとして置いてあるものがあります。
ディクラッセのソーシャルブランド、アースリビング(earthliving)のフラスカスツールです。東京入谷のショールームにお越しいただいた際に、腰掛けていただいたかたもいらっしゃるかもしれません。
アースリビング(earthliving)は、ディクラッセの社内プロジェクトから立ち上げたブランドです。
暮らしの中で使う「物」を、人や地球にやさしい「モノ」へシフトさせるための、ものづくりの取り組みです。廃材やリサイクル素材などにデザインエッセンスを注ぎ込み、「モノ」を楽しみながら循環させていくことがその目的です。
フラスカスツールは、アースリビングのプロジェクトチームが、日本一の森林面積を誇る高知県土佐の杉の間伐材を使ってつくりあげました。
四国山地。吉野川上流にある、早明浦(さめうら)ダム。
この地域で森林資源を活用し、日本の林業が抱える課題を解決する理念のもとで活動されている「さめうらこむ」さんにお願いし、杉の間伐材から切り出した、スツール用の天板を供給していただきました。
早明浦ダムは、西日本で一番大きなダムなのに、毎年水不足で悩まされ、渇水のニュースが取り上げられています。大雨で溜まったダムの水も、晴天が続くと貯水量がどんどん減り、2週間で取水制限になることもあります。その原因は、森の大部分を占める、手入れされていない杉・桧の人工林です。
国内の杉・桧といった針葉樹は、計画的な伐採や間伐が必要です。人工林の場合、苗木から育てた杉の木の8割を間伐する必要があると言われています。地球環境を守る上で、人工林の間伐、保水機能の維持や土壌保全、CO2を吸収する森造りは欠かせません。これをおろそかにすると、さまざまな弊害がもたらされます。
間伐は、多くの木々を育て、産業として循環させる事を目的に考えられていて、実に日本らしい仕組みだと思います。最近になって、人口林の計画的間伐や、手入れの必要性が注目されるようになってきました。しかし、こうした計画的間伐も、その伐採された杉桧が利用されないために、国内産材の原木価格が低迷し、手入れや伐採をすればするほど林業は赤字になる現実を前に、実際は思うように進んでいません。
その結果、日本では放置人工林、つまり本来の森の機能を失ったまま放置された人工林が多くなってしまいました。
杉・桧の原木は安いのに、人間の手で加工して割れないようにしたり、樹脂加工したり、時に必要以上の手間をかけてしまうことで、わたしたちの手もとに届いたときは、高価なものになっていしまいます。その結果、無秩序な伐採などによる森林破壊の産物とも言うべき輸入材が、日本の木材の大半を占めているのが現実です。
森の中で、その役目を終えた間伐材の幹に、新しい息吹を与える気持ちで枝をつけ、販売を始めました。
幹には枝が生え、葉や実ができます。自然の形には節理に従った美しさがあります。このスツールを通して、日本の森の再生、持続性を考えてもらうきっかけになれればと思います。
デザイナー 遠藤道明